サーバントリーダーからサーバント・メンターということ
サーバントメンターはただのリーダーと何が違うのか。
サーバントという語が表すのは、チームとメンバーに対して奉仕できるということです。チームとメンバーに対して、ご自身のパワーを与えることができる人です。
では人はいつ、与えられる側から与える側になるのでしょぅか?
人間は他の哺乳類と比較して、非常に未熟な状態で生まれます。すべてを与えられ、守られる存在として扱われます。次第に自力で移動したり、身辺のことができるようになったりして身体面の自立が達成されますが、それでも心理的な自立には時間がかかり、大人として社会の一員として仲間入りする段階でも”ビギナー”として一定の保護を受ける存在です。誰かから与えられ、導かれ、世話をされて過ごす時期です。
いうなれば、心理的な自立もリーダーに引っ張られながら育っていくのですが、何時までも続けられるものではありませんし、続けてはだめだと思います。ある時は、今までと同じように一歩前から、ただ、それだけでは遠すぎて、0.5歩程度が望ましいと思うことから、また、一歩あとすざりしたというには下がりすぎで、0.5歩後ずさりして自立させていくということ、相手の0.5歩前後を自在に柔軟に動きつつ育てていくこと、これが21世紀リーダーに求められることと思い、0.5歩サーバントメンターと命名したわけです。
社内でその時期をどう卒業し、”与える側”に育っていくのか。これからの組織の人材育成の鍵になるのが、ここだと思います。
経営者・幹部職員向けのトレーニングにメンタリングを取り入れるのは、こういう視点から新しいリーダー像を考えるとき、とても妥当だと考えます。
メンターは、まず相手の話を聴くことができるのです。
さて、そのスキルは座学で学ぶだけでは、身に付きません。
実際に面接をして、ふりかえるという取り組みがなくては、まったく意味がありません。そうやって自分で自分の面接をふりかえり、どこができていたか、できていなかったかを考えられるようになる力も、話を聴くスキルに必要だと言えます。
そうなるためには独学では限界があります。もちろん、一定のレベルに達して以降は自学自習の世界です。でも、初めは先人からの手ほどき、お世話が必要です。正しく自分が成長しているのかどうか、良質なフィードバックを受けていくと”面接がうまくいく”という実感が蓄積されていきます。そして、自分が成長しているところを、他の誰かが導いてくれていて、ケアされている・関心を持たれているというところが、組織全体が成長するような人材育成のポイントです。
つまり、ていねいに扱われ、”十分に自分は与えられた”という真の体験を得られると、人は他者に対してそういうていねいな振る舞いができるようになるのです。支配型のリーダーの元ではその循環が絶対に起きないし、組織内のセルフケアの機能が育たないから、「学習集団」にならないのです。
チームメンバー(従業員)は自分が与える側になることを求められていないから、いつまでも組織にぶらさがっていることを許されているのです。
繰り返しメンタリングのトレーニングを受けていると、次第に自分をケアしてくれる人の視点や在り方をご自身の中に取り込み、自分で自分の世話ができるようになります。言い換えれば、自己内サーバント・メンターが育つためには、自己内に取り込むモデルとなるメンターなりリーダーなりが絶対に必要なのです。
そういったモデルとなるようなリーダーを育てるのが今の私の務めだと思っています。
一旦組織の中にサーバントメンター役割を果たせるリーダーが育ってしまえば、それが第一歩です。あとは組織内で展開して頂けばよいでしょう。
今回、そういったリーダーがまだいない組織には「初めの0.5歩」、つまり組織に第一世代のサーバントメンターを移植できるよう、リーダーたちにその機能を持ち帰らせるためのトレーニングを実施しました。
今期の受講者のほとんどがご感想の中で”自身の成長を感じられた”という点に言及されていました。他の研修でもアンケートを取ればこういうコメントは頂けるでしょう。ただ、私のトレーニングがそういった研修と一番違うのは、トレーナーからの質の高い世話を受ける経験。そして参加者間でのロールプレイやその他のエクササイズで、丁寧にお互いを扱い、扱われるという経験。それらの経験の上で受講者の中にミニ自己内サーバントメンターが成長しているというトレーニングの全体像を、トレーナーがしっかりと自覚しているということです。
すでに時代は令和を迎えました。これからの成熟した社会のために私がするのは、成熟したサーバント・メンターたちを生み育てることです。
今期の「0.5歩サーバントメンター講座」は終了しましたが、また秋に第二期を開講します。今回の受講者の皆さんの成長と成功を、そして新たにサーバントメンターに立候補される方々との出会いを楽しみにしています。
堀之内高久